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ワシントンUPDATE    原子力は信頼できるゼロカーボン・エネルギーとなるか?
©haryigit / iStock / Getty Images Plus

ワシントンUPDATE 原子力は信頼できるゼロカーボン・エネルギーとなるか?

October 24, 2019

ポール・J・サンダース
米センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト 上席研究員
米エネルギー・イノベーション・リフォーム・プロジェクト プレジデント

 

地球温暖化への関心が高まるにつれて、米国では、原子力発電や、信頼性の高いゼロカーボン(炭素無排出)発電に原子力が不可欠な役割を果たしていることに注目が集まっている。これは原子力エネルギーに関して意見が真っ二つに割れている、大統領選挙の民主党候補者間の議論においてとくに明らかだろう。とはいえ、実際には、気候への甚大な影響を回避できるレベルまで温室効果ガスを削減するには、米国は原子力エネルギーが必要である。そして、これは他の多くの国にとっても同じであろう。

民主党の進歩派議員の中には、ゼロエミッション電力の供給に原子力が果たす重要な役割を論証する多くの研究の存在を認めたくないものもいるようだ。しかし、最近発表された(筆者の同僚も共著者に名を連ねる)40件の学術研究に対するレビューによれば、風力発電や太陽光発電も電力システムに大きく寄与する一方で、発電量の50%〜70%まで脱炭素化を進めるには、原子力や炭素回収技術を用いた化石燃料発電など、様々な燃料を併用して電力供給した方が実現可能性が高い[1]。バーニー・サンダース上院議員は、原子力と炭素回収技術の利用は「適切な解決策でない」と主張しているが[2]、これらが気候変動の主要な解決策であるという事実は、研究によって導かれた現実である。

民主党議員にとって同様に重要な存在である、バラク・オバマ前大統領時代のエネルギー省長官であったアーネスト・モニッツ氏は、当時の副長官ダニエル・ポーンマン氏(現在は企業幹部)とともに、原子力を強硬に推進してきた[3]。モニッツ氏は最近の著書の中で、先進的な原子力技術は、気候変動に取り組み、また核拡散を抑止する上でも不可欠であるという説得力のある主張を行っている[4]

では、なぜ科学者も政府高官も原子力を支持するのだろうか?根本的な問題は、風力も太陽光も、時間帯や天気、季節によって恒常的な安定性に欠け、変動する需要に応じて簡単に発電量を増減できない点にある。風力と太陽光のみで(あるいはこれらを主な電源として)国の電力網を建設するとなると、過剰な発電容量と、(電力生産と消費の均衡を図るべくより広い範囲の土地を使用するために)広範囲にわたる新たな送電線、そして膨大なエネルギー蓄積容量が必要となる。さらに、風力と太陽光は、原子力や化石燃料に比べて、同じ土地面積でずっと少量の電力しか生産できないため、米国の電力需要を満たすには少なくとも数倍の土地が必要となるだろう。

原子力の方が結局は経済的?

米国エネルギー情報局によると、米国内の原子炉は、全体で2018年の純発電量の約19%を供給し、国内電力供給に大きく寄与している[5]。これに対して、風力、太陽光その他の再生エネルギー(水力発電ダムを除く)の供給量は、コスト低減とともに急速に増加しているものの、2018年は原子力の約半分、純発電量の約10%にとどまっている。この点を考えると、バーニー・サンダース[6]やエリザベス・ウォーレン両上院議員[7]が求めている原子力の段階的廃止は、とくに両議員の提案する非現実的に急速なペースで実施するとなると、米国がゼロエミッションの電力網を建設するための道のりを一層険しくするだけであろう。

米国における原子力への従来型のアプローチについて、すなわち、企画から認可、建設までに何年も要する数十億ドル規模の巨大プロジェクトが成功するのかについて、疑問を投げかけるのはもっともなことであろう。しかし、公平を期せば、かかる時間とコストの少なからぬ部分は、不適切な規制枠組みの結果である。また、原子力発電所建設における米国の近年の経験不足は、複雑に関連する複数の建設計画を実行するためのコストを増大させている。放射性廃棄物の長期貯蔵場所をどこにするのかということも、解決不可能ではないものの、特に(ウォーレンとサンダース両氏のように)気候変動が「壊滅的」な「緊急事態」であると論じる場合には問題となる。エネルギー省のユッカマウンテン放射性廃棄物処分場の完成を阻む主な障害は、安全な技術や資金の不足ではなく、むしろ政治的なものだ。

この観点からみると、コリー・ブッカー上院議員が連邦政府に対して行なった、先進的な原子力技術に対する200億ドルの投資要請[8]は、民主党のより建設的な政策の1つだといえる。これらの技術には安全、安価、そして安定的な電力供給実現の可能性が秘められている。実際、現在使用されている加圧水型の原子炉に代わる小型原子炉が実現すれば、気候変動に対する対処目標を実現できる可能性がある。このような未来を実現するには、大規模な原子力発電所を想定して作られた既存のルールの枠を超える最新のルールや、研究のための、連邦政府による追加支援が必要となる。

さらに、現在、国内で稼働している原子力発電設備を稼働させ続けることも重要だ。原子力発電所を拙速に停止し、風力や太陽光、天然ガスによる発電に切り替えれば、クリーンな電力システムの実現には近づけないまま、相当な労力を要することになるだろう。廃炉処理それ自体にも莫大な経費がかかる。いくつかの統計によれば、国内でそれぞれ5億から10億ドルの経費をかけて稼働している約100基の原子炉を停止すると、500億ドルから1,000億ドル、あるいはそれ以上の経費が、代替電力の生産にかかる費用に加えて発生すると推定されている[9]

国内の原子力に関係した民間産業を窮地に立たせることも、国の安全保障に重大な影響を与えるだろう。すでにロシアは原子炉の世界最大の輸出国であり、中国がその二番目である[10]。これら2つの国が国際的な原子力発電市場を掌握し、原子力産業における全世界的な規範を作ることができるようになれば、米国内の原子力産業の競争力が低下し、輸出用原子炉建設の需要減少を引き起こすだけでなく、核不拡散を訴える米国のリーダーシップや原子力発電所の導入に意欲的な国々との外交力を失うだろう。それは米国にとって重要な市場を明け渡し、主要な競合国との戦略的な関係性をも失うことを意味する。

風力発電や太陽光発電は気候変動への対処に貢献しており、将来的な技術進歩に伴い、さらなる役目を果たすことは間違いない。しかし、再生可能エネルギーによる電力供給のみで米国の、あるいはその他の国々における電力需要をすべて満たすことができるという考えは、真の意味で「誤った解決策」である。この点に目を向けないことは、気候変動それ自身に目を向けないことと同じではないだろうか。



[1] https://www.cell.com/joule/pdf/S2542-4351(18)30562-2.pdf

[2] https://berniesanders.com/issues/the-green-new-deal/

[3] https://mitpress.mit.edu/books/double-jeopardy

[4] https://www.scientificamerican.com/article/nuclear-power-critical-to-u-s-climate-goals/

[5] https://www.eia.gov/electricity/data/browser/#/topic/0?agg=2,0,1&fuel=vvg&geo=g&sec=g&linechart=ELEC.GEN.ALL-US-99.A~ELEC.GEN.COW-US-99.A~ELEC.GEN.NG-US-99.A~ELEC.GEN.NUC-US-99.A~ELEC.GEN.HYC-US-99.A&columnchart=ELEC.GEN.ALL-US-99.A~ELEC.GEN.COW-US-99.A~ELEC.GEN.NG-US-99.A~ELEC.GEN.NUC-US-99.A~ELEC.GEN.HYC-US-99.A&map=ELEC.GEN.ALL-US-99.A&freq=A&ctype=linechart&ltype=pin&rtype=s&pin=&rse=0&maptype=0

[6] https://berniesanders.com/issues/the-green-new-deal/

[7] https://www.cnn.com/2019/09/05/politics/climate-town-hall-highlights/index.html

[8] https://corybooker.com/issues/climate-change-environmental-justice/corys-plan-to-address-the-threat-of-climate-change/

[9] https://www.reuters.com/article/idUS178883596820110613

[10] https://www.economist.com/graphic-detail/2018/08/07/russia-leads-the-world-at-nuclear-reactor-exports

 

オリジナル原稿(英文)はこちら

    • Senior Fellow in US Foreign Policy at the Center for the National Interest President, Energy Innovation Reform Project
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